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Mystandard

Episode 16 伊藤弥生(パタンナー)、宮内健作(生産管理)

シャツ愛・シャツ熱。23区を立体(フィジカルに)に翻訳する
パタンナーと生産管理のお仕事術

(左)伊藤弥生 1999年入社、2008年より23区を担当。プロダクトマネージャーとして従事。
(右)宮内健作 2005年入社。入社以来、23区の生産管理に従事。
photo: Rakutaro / interview & text: Kana Yamamoto / edit: Yuki Ishida

 



23区の25周年をセレブレートする特別インタビューシリーズ「My standard 25th」。第16回目にお迎えするのは、23区パタンナーの伊藤弥生さんと生産管理を担当する宮内健作さん。平面に描かれたコンセプトやデザインが、いよいよリアルな服として生まれる。その架け橋となる重要なパートを担当されるお二人から見た、23区の服作りのお話です。


 

パタンナーという仕事

 

ー お二人はチームとして働くことが多いのですか?

宮内健作(生産管理):ええ、デザイナー、企画、技術と連動して、チームとして服作りは行われます。パタンナーチームを総称して「技術」と呼んでいるのですが、新しい工場を採用する時も、視察に同行してもらうなど、チームの中でも密にコミュニケーションをとっています。

伊藤弥生(パタンナー):宮内さんとはもう10年くらいになりますね。

 


洋裁をしていた母親がきっかけでこの道に興味をもった伊藤さん。小さい頃から母親のお手伝いなどを通して服作りに身近に触れてきたという

 

ー パタンナーというお仕事について教えてください。

伊藤:ひと言で言うと、平面に描かれたデザイン画を立体にする仕事です。その大元になるのが「マップ」と呼ばれる企画案で、「この生地に対して、2型展開しますよ」といった構成案が記されています。それに基づいて描かれたデザイン画をパタンナーが型紙に落とし込んでいくんです。

23区は25年間も続いているブランドなので、定番の基本パターンがあります。それをベースに、デザインごとに新しくパターンを作っていきます。定番商品であっても全く同じパターンは使用しないので、デザインは同じに見えても、実はパターンはその時々のデザインの方向性に合わせて変えているんです。

 

 

ー 23区のようなモンスターブランドだと、1シーズンに展開する型も相当な量になるかと想像します。

1年を春夏秋冬の4つに分けて考えると、100型くらいですね。チーム総勢11名で、毎月だいたい30型ほどを作っています。

ー 簡単にお仕事の流れを教えてください。

伊藤:型紙ができたら、シーチングという仮の素材でトワルを組み、自分なりにバランスを見て、デザイナーのイメージ通りになっているかをチェックしていきます。今度は実際の素材で縫ってトワルをもう一度組み、デザイナーと再びチェックをします。OKならばファーストサンプルを出します。ファーストサンプルで商品検討、補正をして、セカンドサンプルを出し、さらに補正をしてやっと量産パターンができあがります。

 

 

 

ー 大量生産にもかかわらず、入念なチェックを経て製品化されているのに驚きました。

伊藤:23区はシルエットにこだわりがあるので、その辺りは気が抜けません。工場に投入してからは、今度は検品を何度も繰り返し、予定枚数ができあがったら最終検品をして店舗に送り出します。

ー 平面と立体の間を行ったり来たり。

伊藤:簡単に言えば、2Dを3Dにするのが私たちパタンナーの仕事。そこで、いかようにも着心地が変わってくるんです。

 

モンスターブランドのコミュニケーションの要

 

ー 服作りの過程で、密にコミュニケーションを取りながら宮内さんが生産管理をされるとのこと。具体的にはどのようなお仕事なのでしょうか?

宮内:「品質」「コスト」「納期」、この3つを守る仕事です。それらを滞りなく遂行させることに尽きます。絵型が出てきたら、その後のサンプルスケジュール管理、量産パターンの段取りをして、生産数量を確定して生地を発注し、工場の選定と調整を行います。

ー 工場は国外のパートナーが多いのですか?

宮内:相当な枚数を作るので日本では縫いきれず、海外がメインになりますね。もちろん、コスト面を抑える目的もあります。工場とは定期的にコミュニケーションを取るようにしていますが、新規開拓も日々行っていて、良さそうな工場があれば技術スタッフと出向いてクオリティのチェックをします。コストとクオリティの狭間で最大限の努力をして、お客様により良いお買い物をしていただけるようにするのが私の仕事です。

伊藤:ものすごい枚数なので、3つの工場に分けることもあります。

宮内:工場を分けるにしても、その分、技術の仕事が増えますし、23区では本当に多くのスタッフが関わっているので、各部署の進行スケジュールにも大きく関係してきます。いろんな要素が絡み合っているので、何よりも大変なのがスケジュール調整。本当にみんなのスケジュールは過密ですから。でも、23区のブランド力はスケジュールの厳密さに現れていると言って良いほど、スケジューリングはしっかりしていると自負しています。

 


洋服好きが高じてアパレルの世界に就職した宮内さん。これまで担当したのは女性ブランドのみ。男性がデザインする女性服、女性がデザインする紳士服に惹かれるそうだ

 

ー 長くお仕事のパートナーでいらっしゃいますが、お互いのことを一言で言うと?

伊藤:人を絶対に責めない。そこがすごいなと感心します。

宮内:伊藤さんは芯がしっかりしているイメージ。僕が一番に相談する相手でもあって、絶対的な信頼感があります。

 

美・シンプル・着心地=品

 

ー 「美しく・シンプルなデザイン、心地良さを追求した高品質な仕立て、価格以上の価値を実感できる」を理念として掲げる23区。「着心地」が重要であるということですが、着心地を左右する大きな要素って何だと思いますか?

伊藤:パターン設計が大きいと思います。そして、同じくらい大切なのが素材。肌触りの良さに勝るものはないのですが、アームホールがきつかったりするとテキメンに着心地に影響してしまいます。同じパターンでも、素材が変わると全然感触が違ってくるので、その素材に合わせて設計しないといけません。その辺りは一型一型、答えのない領域なんです。23区では必ずみんなで着て、着心地を確かめています。

ー キーワードの1つである「シンプル」。どのように解釈されていますか?

伊藤:「品」かなって思います。23区の服には品があると思うんですね。

宮内:シンプルって、デザインする上で一番難しい。デザイナーは「シンプルで品があるもの」というイメージの中で、その塩梅を微細に感じ取っているのだと思います。

伊藤:シンプルだからこそ、シルエットにはこだわっています。トワルを必ず2回作って、完璧なシルエットが出るように。その後、何度も確認するのもそのためです。すごく大勢の方に着ていただくブランドですから、どんな方が着てもきれいなスタイルに見える落としどころを、デザイナーと一緒に作りあげています。

宮内:店頭に出す品質にもこだわっています。たとえば、シルクなんかは色落ちしやすい素材なんですね。お客様の手に渡ってから色落ちすることのないよう、公的機関のラボで生地の試験データを取って検査しています。どんなに良い生地でも、試験データ値がクリアできないと23区では商品にできません。

 

 

ー 各担当がプロ意識と情熱をもって洋服作りに打ち込んでいらっしゃることに感動します。長年においてモチベーションをキープする秘訣は何ですか?

宮内:サイクルが早いことでしょうか(笑)。これだけ作っているので、常に何かの商品に携わっているわけです。

常にプレッシャーはありますね。

ー 10年間やってきていても?

伊藤:もちろんです。1万枚の商品を失敗してしまったら、大変なことになります。

宮内:基本的には、人がやっていることなので、何か間違いが起こる可能性は無きにしもあらず、なので。

伊藤:もしそれが起こっても、ちゃんと段取りしてくれているのが生産管理。宮内さんをはじめ23区のチームは、何か良からぬことが起こった時に、前向きに問題に当たるといったポジティブな雰囲気なんです。

宮内:どうリカバリーしようか、それだけを考えますね。

 

23区の考える”本物のシャツ”とは?

 

ー 25周年のカンクリーニのシャツについて教えてください。23区を代表する人気アイテムの1つへと成長しました。

伊藤:こんなにも愛される定番シャツになるとは予想していませんでした。2009年以降、常に進化して型もこれだけ増え、超定番になったのはさすがだと思います。カンクリーニのシャツを作りはじめた時、デザイナーの「本物のシャツを作りたい」という想いから出発しました。私たちパタンナーは、さまざまな“本物のシャツ”を研究しましたね。

ー 「本物のシャツ」とはどういうものでしょうか?

伊藤:そうなんです(笑)。そこから探求していった、と言ってもいいですね。レディース、メンズを問わず一流のシャツを研究しました。初代モデルから縫製技術、衿芯といった副資材まで、実験と改良を重ねて今に至っています。レディースのシャツは通常、接着芯を使用することが多いのですが、23区のカンクリーニシャツはすべて「フラシ芯」を入れています。フラシ芯を使うことによって洗濯してもよれず、剥離することもなく、着た時に襟の形がちゃんと決まります。今のところ、価格に対して価値のある、23区のシャツ以上のものは日本国内においてはないと思っています。それくらいこだわって作っているので、自信を持って着ていただけます。

 


カンクリーニの風合いを出すのに重要な「洗い」加工を終え、「プレス」と言われるアイロンをかける前のシャツ。洗いによって縮むことを考慮し、裾などは最後に縫製をかけることも。23区ならではの仕上げの工程を経て出荷される

 

宮内:カンクリーニのシャツはかっこいいですよね。「本物のシャツ」を中国で縫うにあたって、工場には手間をかけてもらっています。指導をして、要望に応えられる技術力に行き着くまでは大変だったと思いますが、かなりがんばってくれた。そういう努力もあって、定番へと成長できたんだと思います。

 

未来の業界への責任感

 

ー それぞれのお仕事でやりがいを感じるのはどのようなことですか?

伊藤:毎シーズン同じものはない中で、私たちの技術は「これ」という正解がないんです。素材も、形もずっと変わりつづけているので、行き着くところがないのが面白いです。いろいろなことを見て今の服を作らないといけないので、そこが一番難しくもあり、やりがいのあるところです。

宮内:納期、予算、量、23区クオリティといった諸条件が、協力工場とマッチした時が一番うれしいですね。今は、コストカットが叫ばれる時代ですが、そんなに簡単なものではない。(仕事が)ある時はある、ない時はないで済む話ではなく、工場が仕事を必要としている時はブランド全体で知恵を絞りますし、逆もありきで我々が困っている時は工場に助けてもらう。社外の工場もチームの一員ですからね。日本の縫製産業は縮小傾向ですが、日本の技術力は高くて、手つきを見ていても「あぁ、うまいな」って。ただ、若い人材がいないのが問題なんです。一方で海外の工場に出向くと、若い子たちがテキパキと働いているという…。

 

 

伊藤:このような現状が生み出されたのには、メーカーの責任は大きいと思います。コスト優先で、仕事を海外にばかり出していた。これからは逆に、国内の工場を守っていかなければいけない。

宮内:我々はその義務を感じていますね。

 

受け継ぎ、繋げていく

 

ー お二人がファッションの参考にしているものがあれば教えてください。

宮内:映画だと、主役ではなく脇役が街を歩いている時のファッションがカッコ良かったりします。僕は基本的にワークウェアが好きですね。あとは、街の景色を眺めるのが好きです。壁一枚にしても面白いです。

伊藤:美意識をくすぐられるものと言えば、「浮世絵」! 先日もすみだ北斎美術館に行ったのですが、ずーっと見ていても飽きないんですよね。遠くに飛んでいる鳥の形とか、水平線の夕日の色とか、見れば見るほど絵の世界に入り込んでいける。日本ってすごいな~と見るたびに感動します。

ー 25周年を迎える23区へのメッセージをお願いします。

伊藤:私は23区の洋服が好きでよく着ているのですが、不思議なのが若い人が着ても年配の人が着ても似合うんです。やっぱりそれは「品」かなって思うんです。今後も着つづけたいと思っているので、中にいる人間としてこの品質を守れるように寄り添っていきたいなと思っています。

宮内:25年前はまだ学生でしたが、当時からブレずにやっている。百貨店で展開しているブランドが、25年間もこの位置をキープしているってすごいことだと思うんです。僕らは途中から入ってきていますが、受け継がれてきているんですよね。新しいことよりも、ブレないことが大事な気がします。このスピリットを引き継いでいくために、ちょっとでも力になれればと思います。もう、日々、痩せる思いです(笑)。