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Mystandard


Episode 07 ローズマリー・ブーン(テキスタイルデザイナー)

250年受け継がれる英国の老舗テキスタイルメーカー、
FOX BROTHERSのフランネルで紡ぐ

ローズマリー・ブーン(Rosemarie Boon):フォックスブラザーズ(FOX BROTHERS)社 テキスタイルデザイナー。オランダ出身。イギリスのWinchester School of Art(ウィンチェスター)にてテキスタイルを学び、1993年に入社。会社の中でも最も古株であり、歴史から素材までを知り尽くしたエキスパート。
photo: Rakutaro / interview & text: Kana Yamamoto / edit: Yuki Ishida

 



23区の25周年をセレブレートする特別インタビューシリーズ「My standard 25th」。第7回目にお迎えするのは、イギリスの老舗テキスタイルメーカーであるフォックスブラザーズ社のデザイナー、ローズマリー女史。メンズスーツの憧れ、「フォックスフランネル」で有名な同社の生地を使った今シーズンの23区のレディースライン。同社の代名詞である「フランネル」誕生についてのエピソードは必見です。


 

テキスタイルの歴史は戦争の歴史。フォックスブラザーズの代名詞、フランネル誕生秘話

 

 

ー フォックスブラザーズ社と言えば、「フランネル」生地。世界中の名門テーラーでは必ず取り扱われているほど。どのように誕生したのでしょうか?

1860年代に柔らかな繊維を作る技術を開発したのが始まりです。ミリングマシンという小さな木の箱(日本で言うところの縮充ボックス)に、繊維を濡れた状態で入れます。それをグルグル回すことで、ウールの繊維がぶつかりあい細かく砕かれて柔らかなフランネルができあがるのです。

ー その技術革新がフランネル生地を作り出したんですね。

もともとはスーツの定番生地である「サージ」を中心に発展してきましたが、サージより柔らかな生地の開発を目指して生まれたのがフランネルなんです。
フランネル誕生の歴史においては、大きな契機がありました。それが第一次世界大戦です。戦時中、兵士は匍匐(ほふく)前進など土や木々に揉まれながら戦線を前進していきますよね。そういう環境下では、サージは糸が枝などに引っかかってしまい、兵隊がブッシュの中を自由に歩けない。同じように温かさがあって繊維が引っかからない、つまり、繊維が切れている生地を開発するように軍から要請があったようです。それまでは、軍服の生地はとても固いものでした。
現代でも、NASAなどで新しい繊維が開発される際には、国家予算規模の膨大な投資が行われています。生地の歴史をたどると、国や軍との関わりがあったりするんですよね。特にメンズ系は。軍服と言えば、以前、英兵は真っ赤な軍服に身を包んでいました。

ー バッキンガム宮殿の衛兵の衣装も赤ですね。

ええ。しかし戦地では、赤は致命的なほど目立ちすぎます。そこで開発されたのがカーキ色なんです。

ー カーキ色はフォックスブラザーズ社が始まりなんですね!

ええ、泥のような目立たない色が求められました。

ー 肌触りや見た目だけでなく、リサーチ&ディベロップメントの歴史でもある。

フォックスブラザーズ社は、1600年代までその歴史を遡ることができます。昔は家内工業規模で、小規模でやっていましたが、その後、産業革命*が起こり工場制機械工業が本格化し、1772年にトーマス・フォックスが「フォックスブラザーズ社」を設立。彼の奥方の家業で「ウィアー」という屋号で営んでいたのを引き継ぎ改名したのです。
*産業革命は1760年代~1830年代にイギリスで始まった。中でも大きな革新が織物の生産過程における様々な技術革新。

 


スワッチのアーカイブ資料にサルバドール・ダリとココ・シャネルの姿も

 

ー ケーリー・グラントやチャーチル大統領、デヴィッド・ボウイなど、錚々たるセレブレティがフォックスブラザーズを愛用しています。

テーラーではないので、実際に誰が着用していたのかを詳しく探るのは難しいのですが、ケーリー・グラントの出身が弊社ウェリントンの工場からとても近いので、フォックスブラザーズのことはよくご存じでした。

ー 素材の良さから、目の肥えた人々にも広まっていったのですね。

質の良さはテーラーたちにも人気でした。とても扱いやすく仕立てやすいので、サヴィル・ロウの有名なテーラーでは昔から変わらず取り扱われています。

 

「プリンス・オブ・ウェールズ」の流れを汲んだ23区のグレンチェック

 


23区で使用した生地のオリジナル「プリンス・オブ・ウェールズ」

 

ー 膨大なサンプルですね。

これらは「スワッチ」といいます。1772年当初の生地を復刻したものや、50年くらい前のもの、そして最新の見本を持ってきました。私はシンプルなものしか着ないのですが、眺めているだけでうっとりする織りがたくさんあります。この繊細なラインを見てください。チョークストライプの生地も、シンプルで正統派でしょう? ストライプも復活の兆しを見せていますし、時代ごとの流行りが繰り返されながら続いていくんだなと感じます。

ー 23区のチェックを作った、オリジナルの生地について教えてください。

まず、フランネル生地でグリーンのチェックをデザインしましたが、これはクラシックな「プリンス・オブ・ウェールズP.O.V.」というパターンがベース。オリジナルは赤の色糸が載っているのが特徴です。プリンス・オブ・ウェールズは、18世紀後半のハンティングや射撃の時に用いられていました。エドワード王子の祖父の代から愛用されており、一般的には「グレンチェック」と呼ばれ、多くは濃い色と淡い色との組み合わせです。グリーンが完成した後、もう一つのグレーのパターンを作りました。「デコール」と呼ばれる、柄のブロックが真ん中にあるのが特徴です。

 

 

ー とっても素敵に仕上がっていますね。

グリーンのラインは単糸織りのメリノウールで、とても細い糸を使っており、滑らかな手触りです。通常のスピードだと切れてしまうほど繊細なのでゆっくりと織っていきます。もう一つのグレーのラインは同じくウールですが、双糸の生地。千鳥格子も大胆になっていますよね。両方とも同じ技術で織られていますが、双糸のほうが太く表現されていて、手触りもざっくりとした感じに。とにかく素晴らしい出来で全部気に入っています。キツネロゴの施された内側のレーベルにも注目してください。

 


代々継承される“キツネ”のロゴ

 

ー 伝統と今が内在したデザインで、長く愛用できそうですね。

ラグジュアリーでとても柔らかい生地なのですが、お手入れをすれば、ほぼ一生着られます。今朝も1974年、約40年前に作られたスーツを着ている方とお会いしたのですが、新品のように美しかったです。私も20年間着ているジャケットがありますが、肌触りは変わっても、まだまだ美しいまま。レディースブランドということで、23区のお仕事はとてもエキサイティングでした。上質な生地なので、女性も着るべきだと思っていたんです。

 

医師からの転向、テキスタイルデザイナーへの道

 

 

ー ローズマリーさんは勤続25年とのことですが、フォックスブラザーズ社のデザイナーはどのようなお仕事をされているのですか?

お客様からご要望をもとに商品開発を行っています。糸の重さや色味などを決め、生地を作っていく仕事です。まずコンピュータ上(CAD)でシミュレーションし、その後、実際にサンプルを織ります。生地の重さやトレンド感など、お客様とアイデアを決定させた後、技術的な要素に落とし込んでいきます。

ー デザイナーになろうと思ったきっかけは?

大昔の話ですが(笑)、元々は医者になりたかったんです。私はオランダ出身なのですが、医者になるには英語力が必要で、その勉強のためにイギリスにやってきました。それが18歳の時。勉強の傍ら、アンティークの生地を売るお店でバイトを始めると、そこで扱っている生地が本当に素敵で、すっかり魅了されてしまったんです。医者の道は辞め、テキスタイルの学校に入学したのがきっかけです。

 


その昔、輸出用にウール生地を包んでいたジュート製布のデザインをスカーフとして復刻したもの。このデザインが輸出者の印になっている

 

ー どのようなところに魅力を感じたのでしょうか?

とてもたくさんの種類があるところです。プリントもあればニットもあります。そして、織物はとても技術的。縦糸、横糸があってそれらを織り合わせていくという単純な構造なのに、無数の柄に編み出されていく。そして、それらには多くの技術的制限があって、とても数学的なんですよね。クリエティブな要素と技術的な知識と才能が必要で、私はそれが好きで楽しんでいます。

ー テキスタイルメーカーの中でも、フォックスブラザーズを選んだ理由は?

イギリスに来た時に、ホームステイしていた先の息子と恋に落ちたんです。その家がフォックスブラザーズ社のある地域にありました。その恋は私がイギリスを離れている間も続き、ウールで有名な北フランスで働くという選択肢もありましたが、最終的に結婚してサマセット州に戻ってきたんです。

 


合気道を習っているローズマリーさん。高い集中力が必要される練習が気に入っているそうだ。もう一つの趣味は、フランネル生地への刺繍。ロンドン出張の道程で少しずつ針を進める。ほとんどが家族に関連のあることで思わず微笑みが溢れる

 

ー フォックスブラザーズ社とローズマリーさんの歴史について詳しくお話しいただき、ありがとうございました。今年は23区にとって25周年の記念の年。フォックスブラザーズに比べるとまだまだ若いブランドですが、最後にメッセージをお願いします。

2世紀を生きてきたフォックスブラザーズが、若くてフレッシュな23区と一緒にコラボレーションできる素晴らしさを噛み締めています。10倍くらい歳をとってますね(笑)。これをきっかけに、また一緒にお仕事できる機会があることを願っています。

 

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